。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅲ・*・。。*・。
玄蛇は赤い唇ににっこり笑顔を浮かべて、微笑んだ。
「やっと気付いた?」
「………」
あたしが何も返さず、しかし驚きを隠せないで玄蛇をただひたすらに見据えていると、
「これが“本来の”私の姿だよ。君も知ってるだろう?」と楽しそうに玄蛇は笑った。
「…え、ええ。髪の色―――“元”に戻したのね。でもどうして?」
「“ネズミ”避けだよ。目障りな“ネズミが二匹”私の周りを嗅ぎまわっているようでね」
玄蛇は指を二本突きたてて、うっすらと笑った。
ネズミ―――……?
「それって響輔たちのこと?あんた響輔たちに一体何をしたの!!」
そう怒鳴ると同時に、エレベーターがタイミング悪く下降してきて、重い鉄の扉が音もなく開いた。
「まぁそう苛々しないで♪ゆっくり話し合おうじゃないか」
玄蛇はいつもの軽い調子で笑って、あたしをエレベーターの箱の中に促す。
何だろう。喋り方も表情もいつもと同じだって言うのに、しかも黒髪できっちりスーツと言ういつもの格好よりも軽いのに、
何だか―――怖い。
あたしはテディが掛かっているバッグをぎゅっと握り締めて、胸の前で抱きしめるように抱えて箱に乗り込んだ。
―――いつものように部屋に招き入れることを戸惑った。
こいつがあたしに興味がないにしろ、あたしの“命”の保障はあるとも言えない。
それでも下手に騒いだりしたらこいつは何をしてくるか分からない。
散々迷ったけれど、結局あたしは部屋に招き入れることにした。
響輔たちを狙ったわけを、真相を知りたい―――って言う本心があったから。