。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅲ・*・。。*・。
玄蛇の顔が近づいてきて、あたしは目を細めた。
だけど玄蛇はあたしの唇に口付けを落とすわけでもなく、顎の先にキスを落とす。
「君が望めばとびきり甘くてとろけるようなキスをするよ?」
その言葉を聞いてあたしは玄蛇の背中に手を回し、彼が羽織っているパーカーを肩から滑らせた。
きれいな鎖骨が露になり、その首にはシルバーのチェーンに変わった形をしたペンダントトップがぶら下がっている。
鳥のような―――その形は、嘴が長く羽根を大きく広げていた。
脚と思われるその先には“M”のアルファベットがくっついている。オーダーメイドだろうか、凝ったデザインだ。
それを見ないふりして、パーカーを抜き取ると、タンクトップの中に手を這わせた。
玄蛇があたしの首筋に口付けを落とし、あたしの脚と玄蛇の脚が絡まる。あたしはその様子を足元の鏡越しに見ていた。
ベッドでもつれ合う男女は艶かしい―――ように見えたけど、それは幻に過ぎない。
何もかも―――偽りだらけ。
あたしが玄蛇のタンクトップを捲り上げると、彼の背中にはやっぱり腕のタトゥーとは違う代紋が背中いっぱいに広がっていた。
「あんたいくつ名前持ってんのよ?」
目だけを上げて聞くと、玄蛇は目をまばたかせた。
「そんなことを知る必要が?」
「あるから聞いてる」
そっけなく言って玄蛇の肩を押し戻して起き上がると、玄蛇は面白そうに笑ってあたしの背後に這って移動してきた。
「名前なんてどうでもいいじゃないか」
あたしの髪を後ろから掻き揚げて肩にキスを落としてくる。
冷たい―――口付け。
偽りだらけ。
こいつはいつもへらへら軽かったり、でも突然真面目な顔で怖くなったり―――
―――どれがこいつの本当の“顔”なんだろう。
でも、あたしに見せるどの表情も人格も偽ものな気がした。
あたしは玄蛇から離れて、「やめて」と意思を示すように軽く手を払った。