。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅲ・*・。。*・。
あたしが離れても、玄蛇はそれ以上強引に迫ってくる気配を見せず、あたしの横に再びごろりと横になった。
「慣れないことをするもんじゃないな」
ふっと自嘲じみて笑うその横顔を眺めて、あたしも口元は歪めながら彼の隣で横になった。
“目的をたがえるな”
玄蛇はそう言ったけれど、それを理由にあたしに脅しを掛けにきたみたいだけど、
それは言い訳に聞こえた。
「ねぇキスしてあげよっか?」
突如思い立ってあたしは身を起こすと、隣で横になっている玄蛇を覗き込んだ。
「は?」
玄蛇が珍しく驚いたように目を開いた。
あたしは自分の唇を指で押さえると、ちょっと微笑んでみせた。
「勘と頭のいいあんたなら分かるでしょ?
形勢逆転ね。キスしてあげたら“ネズミ”のことを教えて」
玄蛇は驚いていた表情を緩めると、ふっと微笑を浮かべた。
「君はワルい女だな。随分魅力的な“取り引き”だが遠慮しておくよ。キスしないまでも“ネズミ”のことは隠すつもりはなかったしね」
「あら、そ。儲かったわ」
「ネズミは鷹雄たちのことじゃない。私が仕事するたびにヤツらはその痕跡を追って、私を探し出そうとしてるのさ」
「それだけじゃ分からない。あんた青龍…いえ玄武かも…とにかくそう言う人間に目を付けられてるの?」
「青龍の人間じゃない。玄武は私の存在すら知らないさ。抹殺したと思い込んでいるようだからね。哀れな人間たちだよ。愚かしくて、殺す気にもなれない。
それに私は青龍や玄武なんてどうでもいい。
私にとって“ネズミ”は青龍や玄武よりももっと厄介でたちの悪い人間だ」
玄蛇にとって都合の悪い人間―――…あたしは考えてみた。
でも考えても答えは出てこない。
って言うかいかにも敵が多そうだから検討がつかないと言った方が正しいかしら。