。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅲ・*・。。*・。



「なんだい?突然」


玄蛇が目だけを上げて不思議そうにまばたきを繰り返す。


「ちょっと気になったから」


もし、こいつに大切なヤツが居るとしたら―――玄蛇が裏切ったりして、あたしの立場が危うくなったら……いざとなればそいつを楯にするつもりだ。


まぁ保険ってことね。


まぁこいつが簡単に吐かないことは分かってるけど、でもイニシャルが分かっただけ良しとするわ。


玄蛇はあたしを“ワルい女”と言ったけど、まさしくその通り。あたしの前で油断しないことね。


「日本一の殺し屋だって言うのに、あんたはここに留まってる。その理由が知りたくてね。


もしかしたら恋人でも近くに居るのかと思って」


「随分ロマンチックなことを言うね。私がその“恋人”やらを近くで見守ってると?


生憎だが恋人はいない」


半分以上予想していたことだから、あたしはそれほどがっかりこなかった。


ペンダントから手を離そうとした瞬間―――…





「だが見守りたいひとは、たった一人だけ―――居るよ」






玄蛇の意外な一言にあたしは顔を上げた。


玄蛇の顔には悲しそうな寂しそうな―――複雑な表情を浮かべている。


はじめて―――こいつの顔から人間らしい表情を見た気がした。


恋人じゃないってことは、片想いか……


でも片想いでも、たとえその想いが決して通じないと分かっていても、見守りたいと言い切ったこいつが―――今日は、なんだかとても眩しく見えた。



「さっき君は家族は居ないかと聞いたね」


「ええ」







「居るよ。




たった一人―――



妹が一人。




見守りたいというのは、彼女のことだ―――」






< 242 / 776 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop