。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅲ・*・。。*・。
「なんだい?突然」
玄蛇が目だけを上げて不思議そうにまばたきを繰り返す。
「ちょっと気になったから」
もし、こいつに大切なヤツが居るとしたら―――玄蛇が裏切ったりして、あたしの立場が危うくなったら……いざとなればそいつを楯にするつもりだ。
まぁ保険ってことね。
まぁこいつが簡単に吐かないことは分かってるけど、でもイニシャルが分かっただけ良しとするわ。
玄蛇はあたしを“ワルい女”と言ったけど、まさしくその通り。あたしの前で油断しないことね。
「日本一の殺し屋だって言うのに、あんたはここに留まってる。その理由が知りたくてね。
もしかしたら恋人でも近くに居るのかと思って」
「随分ロマンチックなことを言うね。私がその“恋人”やらを近くで見守ってると?
生憎だが恋人はいない」
半分以上予想していたことだから、あたしはそれほどがっかりこなかった。
ペンダントから手を離そうとした瞬間―――…
「だが見守りたいひとは、たった一人だけ―――居るよ」
玄蛇の意外な一言にあたしは顔を上げた。
玄蛇の顔には悲しそうな寂しそうな―――複雑な表情を浮かべている。
はじめて―――こいつの顔から人間らしい表情を見た気がした。
恋人じゃないってことは、片想いか……
でも片想いでも、たとえその想いが決して通じないと分かっていても、見守りたいと言い切ったこいつが―――今日は、なんだかとても眩しく見えた。
「さっき君は家族は居ないかと聞いたね」
「ええ」
「居るよ。
たった一人―――
妹が一人。
見守りたいというのは、彼女のことだ―――」