。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅲ・*・。。*・。
あたしは部屋を抜け出ると、戒の部屋を素通りして二階に上がった。
さすがに深夜だから起きてる者は居らず、灯りを消した廊下はしんとしずまりかえって重い沈黙が圧し掛かるように支配している。
ギシ…
階段が思った以上に大きな音を立てて、あたしはあわててつま先で昇った。
キョウスケの部屋は―――階段を昇って南側の廊下に面した場所のひとつだ。
さすがにもう寝てるだろうな……
さっき見た夢―――…
――……あたしが振り返ると、あたしのすぐ後ろにはイチが居た。
あたしが青龍会本部の廊下で見たときのあの白い着物から覗いた、同じだけ白い腕で胸に抱いていたのは、
目を閉じたキョウスケの姿だった。
「キョウスケ…?おい、大丈夫かよ!どうしたんだ!」
あたしが問いかけるものの、キョウスケはぐったりと目をとじたままその体をイチに預けている。
『響輔は誰にも渡さない。あなたにもね』
イチは赤い口元でうっすらと微笑を浮かべて、
同じだけ赤い指先からそのマニキュアの色と同じだけ紅い炎がゆらりと浮かび上がり、やがて炎はイチの身体を包んだ。
声にならない声を上げると、イチは愛しそうにぎゅっとキョスウケを抱きしめて、紅の炎がやがてはキョウスケをも包み込む。
「キョウスケっ!」
そう叫んで手を伸ばしたと同時に、イチは人間の女の姿から見たことのないような鮮やかな紅い大きな鳥に姿を変えた。
燃え盛るその大きな羽でキョウスケを包み込むようにして、やがてはキョウスケの姿も黒く代わっていった。
黒い大きな羽根が辺りに舞い、
燃え盛る不死鳥の身体に包まれ、“鷹”が啼き声を挙げる―――
『鷹狩りよ』
イチの声が楽しそうに響き、
キョウスケーーー!!!
あたしは手をいっぱいに伸ばしていた。
―――そこで目が覚めた。