。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅲ・*・。。*・。
「は?」
さすがのキリもこのタイミングでこの発言には戸惑ったようだ。
ミネラルウォーターを飲んでいた手を休めて目をぱちぱちさせている。
「何よ。ちょっとコンビニでも行かないか?みたいな気軽な言い方じゃない。
結婚生活はコンビニの道のりよりも遠くて険しいわよ?
それにこのタイミングで言う?私料理を焦がしたばかりよ」
「料理は俺がすればいい。ベッドではお前に勝てないからな。せめてお前に勝る何かがあって良かったよ」
またもそっけなく言って、片栗粉入りの水を注ぎいれているときだった。
「あなた私のこと愛してるの?」
そう聞かれて、俺の小皿を持つ手が止まった。
「嫌いじゃない」
それだけ言うと、
「答えになってない」
とキリが面白く無さそうに答える。
「お前だって俺を愛してるわけじゃないだろ?」
「さぁ?でもそんな曖昧な感じで結婚決めちゃっていいの?」
「簡単じゃない。でも短い人生だ。結婚の一度ぐらい味わってもいいかなって思って。それでまぁそこそこ気の合う女だったらいいかな、って考えてたわけだからな」
俺は本気で愛した女たちと―――添い遂げられることはできなかった。
そういう運命下にあるのなら、抗う意味で、深い愛情を抱いていない女と結婚するのもありかもしれない。
そう思ってのことだった。
愛さなければ―――失ったときの、あの潰れそうな悲しみに襲われることも、もうない。
プロポーズの言葉にしてはあまりに普通過ぎる…と言うかかなり失礼な発言だが、
キリは気にした様子もなく
「ふーん、曖昧ね。まぁそういうのもいいかもね」
とにっこり笑って俺の腰に巻きついてきた。
「なぁ一つ聞いていいか?」
俺が再び調理を再開し始めると、
「なぁに?スネークのことなら探ってるところだからまだ分からないわよ」
キリは俺のローブの合わせ目から指を差し入れてくる。
「違う。お前、一体いくつなんだ?」
俺が聞くと、
「……―――あなたの四つ下!」
と、ここではじめて本気で怒りの声を聞いた。