。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅲ・*・。。*・。


押し付けられたものを見ると、それは映画のチケットのようだった。


「“双りぼっち”の試写会の招待券。あげるわ。“奥さん”と来れば?」


イチはそっけなく言ってくるりと踵を返す。


「帰るわ」


短く言って髪を振り、スタスタと行ってしまう。


「あれ??ご機嫌ナナメ?もしかしてあの日…」


と大狼が不思議そうに、だけど妙に納得顔で顎に手を置いてイチの後ろ姿を見送っていた。


「変な想像するな」


俺は大狼にそう言い置いて、


「イチ。待て」


イチの後ろ姿を追いかけた。


イチが不機嫌なのは今にはじまったことではない。イチはいつも俺に対してそうだ。


明確な理由などないが、とにかく俺を毛嫌いしている。





だけど今回の不機嫌の原因は―――はっきりとしていた。





イチはビルの玄関の石段を降りると、目の前に路駐していた赤いフェラーリに運転席を開ける。


「待てよ」


そう言ってイチの後を追うと、


「何よ。別にあたしはあんたの結婚に何とも思ってないから安心して?新しい“お母さん”を紹介されても、


『パパと結婚なんてあたしは認めない』なんて可愛いこと言わないから」


バッグを助手席に放り入れると、思いなおした様に顔を上げる。


「ああ、それとも紹介するつもりなんてない?あんたに“娘”なんて居ないもんね」


無表情にそう言って腕を組む。


俺は石段の上からその様子を見下ろした。





< 310 / 776 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop