。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅲ・*・。。*・。
押し付けられたものを見ると、それは映画のチケットのようだった。
「“双りぼっち”の試写会の招待券。あげるわ。“奥さん”と来れば?」
イチはそっけなく言ってくるりと踵を返す。
「帰るわ」
短く言って髪を振り、スタスタと行ってしまう。
「あれ??ご機嫌ナナメ?もしかしてあの日…」
と大狼が不思議そうに、だけど妙に納得顔で顎に手を置いてイチの後ろ姿を見送っていた。
「変な想像するな」
俺は大狼にそう言い置いて、
「イチ。待て」
イチの後ろ姿を追いかけた。
イチが不機嫌なのは今にはじまったことではない。イチはいつも俺に対してそうだ。
明確な理由などないが、とにかく俺を毛嫌いしている。
だけど今回の不機嫌の原因は―――はっきりとしていた。
イチはビルの玄関の石段を降りると、目の前に路駐していた赤いフェラーリに運転席を開ける。
「待てよ」
そう言ってイチの後を追うと、
「何よ。別にあたしはあんたの結婚に何とも思ってないから安心して?新しい“お母さん”を紹介されても、
『パパと結婚なんてあたしは認めない』なんて可愛いこと言わないから」
バッグを助手席に放り入れると、思いなおした様に顔を上げる。
「ああ、それとも紹介するつもりなんてない?あんたに“娘”なんて居ないもんね」
無表情にそう言って腕を組む。
俺は石段の上からその様子を見下ろした。