。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅲ・*・。。*・。
それになんて答えていいのか分からず、俺はただ無言でイチを見下ろしていた。
正直、朝霧をイチに紹介するかどうかなんて…そこまで深く考えてなかったのだ。
「あんたの結婚をぶち壊すつもりもないし。そんな暇じゃないしね。
それに何か勘違いしてるかもしれないけど、あんたはあたしの“父親”じゃない。
あたしに父親なんていない」
イチ―――……
「あ。でも一つだけ重要なことをあんたは教えてくれたわ。
あんたは父親としても一人の男としても最低だけど―――
“愛や恋なんて存在しない”そのことを教えてくれた。
“いっときのまやかし”そう気付かせてくれた。
あたしはママみたいにならない。
朔羅の母親みたいにならない
愛なんて信じて、儚く散っていく女じゃない―――」
まるで俺に言い聞かせるようにことさらゆっくりと言って、イチは車に乗り込んだ。
「じゃあね」
パワーウィンドウを開けて、そっけなく一言言い置くと、イチはエンジンを吹かした。
ブォン!
派手なエンジン音が聞こえて、イチの車はすぐに発車した。
俺は―――
イチの赤い車が見えなくなるまで、その姿を呆然と見送っていた。