。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅲ・*・。。*・。


グラスが割れて零れたパフェを掃除するために、戒が厨房から雑巾やらバケツやらを持ってくる。


割れたグラスを片付けようとして、破片を拾い集めていたあたしの横に戒がしゃがみこみ、


「危ないって。俺がやるからお前は接客してろよ」


と、小声でフロアを目配せする。


その横顔は―――あたしにあまり見せることのない無表情だった。


思えばこいつはいつだってよく笑っていて、その天使みたいなあどけない笑顔が結構好きで、あたしはいっつも簡単にKO。


コロコロ変わる表情は、キョウスケと違って分かりやすい。


だからちょっとしたことなら何を考えてるのか大抵分かるけど―――




今はその表情から何も読み取れない。




怒らせた―――……?


「…ごめん……」


もう一度項垂れて謝ると、


「何謝ってんだよ。誰だってミスはあるだろ?気にしなくていいから」


戒はいつも通りの表情で柔らかく笑うと、


「ほら、仕事、仕事♪」と明るく言う。


戒は普段通り。でも意図的にあたしに触れてくることがなかった。


今だって少しだけ距離を置いて腰を屈めている。


あたしが戒を怖いと思っているからだろうか。そうゆう気遣いが分かったけど、



それは違う。





でも




あたしの中に、戒に申し訳ないと思う後ろめたい気持ちがあるから。


それともたまたま生理で不安的なのだろうか。





どちらにしろ、今のあたしはいつも通りの態度では




居られなかった。





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