。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅲ・*・。。*・。
「意外ですね。お作法を知っていらしたなんて」
バカにされた気がしたが、何故だか悪い気はしなかった。
「まぁ一通りは?姉の百合香は琴を、弟の雪斗は三味線を嗜んでいたが、
俺は楽器には興味がなくてね。
雅なものを何か身に付けるなら茶道が一番いいと思ったんだ」
死んだ俺の親父(前青龍会会長)がきょうだいにそれぞれそう言った雅なものを習わせた理由は、今まで分からなかったが、
今この場で役立っていることに気付いた。
俺が茶道を選らんだ理由は茶菓子が旨そうだから…と最初の動機は不純だったが、これが結構楽しかった。
朔羅は百合香の娘だけある。
やはりあいつも琴を好んだ。
憎き戒のヤツは三味線が得意だったな。嫌味なヤツだぜ。
忌々しそうに唇を噛んでいると、
「意外でした。あなたがこの場所を指定してくるとは」
と彩芽がおっとりと微笑んだ。
この場所は―――彩芽の実家だ。
元々この女は有名な茶道家の令嬢でもあるのだ。
立派な家の名を継ぐことなくこの女は何故今のような立場を選んだのか。
何を考えてるのか知りたくて俺が目を細めて彩芽をしげしげと見ると、
「濃茶のあとは薄茶をいかが」
と柄杓を握った。
俺はその細い手首を掴むと、正座していた場所から立ち上がった。
「いや、結構。俺は茶を飲みにきたわけじゃないんでね」
膝をついて彩芽の手首からこの女の細い顎に手を掛けると、俺は真正面から彩芽を見据えた。
すぐ近くに迫った俺を見上げて彩芽は後ろに手をついた。
「無粋なことをなさるのね」
まだ余裕があると見えて、その表情はおっとりとした笑みを浮かべている。
その余裕もいつまで持つかな―――?
「あんた、俺の倅―――虎間 戒に、畑中組についての疑惑を
入れ知恵しやがったな」