。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅲ・*・。。*・。
「入れ知恵?私はただ、『私のことを知りたくば、自分で調べなさい』と言っただけよ?」
俺は彩芽の顎に掛けた手に力を入れた。
「ああ、朔羅に自分は『畑中組と繋がりがある』と言ってな。
あいつらのチームワークを逆手にとりやがって」
俺は忌々しそうに眉を吊り上げると、彩芽の顎をぐいと乱暴に上に向かせた。彩芽はそれまでの笑顔を拭い去り俺をひたと見据えてくる。
「何をするつもり?私を脅したって無駄よ。もうすぐ“彼”も来る」
「ああ、ヤツは大抵時間より30分程遅刻してくるやつだ。
長い付き合いだ。あいつのことは分かりきっている」
俺が口の端で笑うと、彩芽の肩を乱暴に押した。
彩芽が短い声を上げて畳に倒れ、俺は彼女の上に覆いかぶさるように彩芽を覗き込んだ。
抵抗されないよう畳に手首を貼り付けにして、纏わりつくような鬱陶しいネクタイを緩めた。
「なあ、彩芽。30分もありゃ充分だと思わないか?
あんたが吐かなければ、強行突破に出る」
畳に貼り付けた手首に力を入れると、彩芽はまたもうっすらと笑った。
倒れた節に、きっちり結い上げた黒い髪が白い頬を流れていて、彩芽の口元に流れている。俺はそれをそっとすくった。
「年上女を満足させられる?ぼーや」
彩芽はうっすらと笑い、その笑みは今までのおっとりと上品な女の面影はなかった。
いっそ妖艶とも言える微笑に、ぞっとするような美しさを見た気がした。
彩芽は俺の上着の襟に手を伸ばすと、その中にそっと指の先を差し込んできた。
「あなたのような若い男から口説かれるなんて、私もまだまだいけるってことよね。安心したわ」
俺は彩芽の手を掴むと、襟の中から手を抜き出した。
「口を割らないつもりか」
俺は諦めたように吐息をつき、彩芽の帯に手を掛けると、やや強引と呼べる力でその帯を解きにかかった。
「こうゆうやり方は好かんが、いたし方あるまい」
何重にも巻いた帯を解くと、彩芽が口の端で薄く笑ったのが分かった。