。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅲ・*・。。*・。
俺が彩芽の首筋に顔を近づけると、
「せっかちな男は嫌われるわよ」
彩芽が囁いて、次の瞬間、彩芽の脚が俺の脛を蹴り上げた。
女の力だと思ってあなどっていたが、的確に狙ってきたのもそうだし、瞬発力に優れている。
俺は打たれた側とは別の方を軸足にして素早く身を起こし、上着の中からハジキを取り出すと彩芽に向けた。
その瞬間だった。
ほんの2、3秒の間で俺が解いた帯の端が飛んできて、その色が俺の視界を染め上げた。
淡い銀色をしていて、鶴の刺繍を施してある凝ったものだ。
一瞬遅れでハジキを構えると同時に、その帯が俺の手首にぎゅっと巻き付く。
帯を俺の手首に巻きつけたまま、彼女も立ち上がりその端をぐっと引いて妖しく笑った。
「私が丸腰であなたと会うと思う?だてに長く生きてないの。
知恵だけはあるわ。帯の端には錘が入ってる」
帯を武器にするとは考えたもんだ。そしてそれを操るのは反射神経と技がいる。
「銃をしまいなさい。龍崎 琢磨」
彩芽が視線を険しくさせながら一歩下がると、俺の手首に巻き付いた帯びもぎゅっと締まった。
錘入りと言ったか。締められた手首が締まって僅かな痛みを発する。
「俺に命令とはいいご身分だな」
再び銃を構えようとすると彩芽は帯の先を引いた。そのせいで俺の手首がぶれて銃口の標準が定まらない。
「ちっ。厄介な女だぜ、まったく」
悪態をついているときだった。
カチャっ
茶室の入り口から乾いた音がして、
「手を挙げろ、リュウ。彼女に手を出すな」
待ち人がようやくお出ましだ。