。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅲ・*・。。*・。
覚えのある香り。
こいつが纏う香りはいつも嫌みったらしいほど爽やかで、しかも認めたくないが何故かこいつに合ってる。
「よーう、“円周率野郎”会いたかったぜ」
俺が口の端に笑みを湛えたままその“円周率野郎”を見ると、ヤツは狭い入り口から身を屈ませてゆっくりと中に入ってきた。
やつはハジキを構えたまま、険しい表情でその銃口を俺に向けたまま、
「もう一度だけ言う。銃を置け、リュウ」
「言う通りにしなさい。“タチバナ”くんが来たからにはあなたに勝ち目はないわ」
彩芽は帯の端を引きながら、そいつ“タチバナ”をちらりと見た。
「やれやれ。2対1か。俺の負けだな」
負けを認める以前に、俺はそもそも本気でこいつらを撃とうとしていたわけではない。
俺は握っていた拳銃から力を抜くと、畳の上に落とした。
ゴトっ
と鈍い音がして、その音が結構な重量であることに、今更ながら気付いた。
タチバナはそれを拾い上げると、手馴れた手付きで中のマガジンを取り出す。
それを見届けてから、彩芽はようやく帯を引いていた手を緩めた。
――――
「遅くなってすみませんでした」
タチバナは俺の隣に腰掛けると、帯を直している彩芽に謝った。
「君が送れるのはもう慣れっこよ」
と彩芽は涼しい表情で受け流している。
「こいつ“仕事”でもそうなのか?」
俺が気になったことを聞くと、彩芽はちょっと肩をすくめて
「まぁ大抵そうかもね」と笑った。
ここに来たばかりの上品な笑顔だった。
さっきの緊迫した雰囲気はどこへやら、俺たちは和やかな空気の中顔を向き合わせた。