。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅲ・*・。。*・。
俺は手の中にあるケータイを見つめ下ろして、そのあとゆっくりと顔を上げた。
「ケータイをいじってそれを実行したのはあいつ―――…響輔やけど、
考え付いたのは
俺や」
イチはさっきまで青ざめさせていた顔から一転、うっすらと口元に淡い笑みを浮かべて笑った。
「そ。なら良かった」
短い一言だったけれど、心底安心したように聞こえたのは気のせいだろうか。
俺は今度こそっと言う勢いでドアを開けて、車から降りたった。
扉が閉まると同時にイチの車がゆっくりと発車した。
イチはもう俺の方を見てはいなくて、サングラスを掛けながら進行方向を向いている。
その発車する車の窓をコンコンと軽く叩くと、イチが意外そうにこちらに顔を向けてサングラスをちょっと下にずらす。
「まだ何か?」
パワーウィンドウを下げながらイチが迷惑そうに顔をしかめた。
俺は車の天井に手を置いて、低い車体を覗き込むようにして腰を折った。
「あんたはサロメになれへんよ。
その気やったら昨日、響輔を殺してるやろうしな。
言いたい事はそれだけや」
ま。あいつがそう簡単に殺られるタマやないけど。
それでも一晩一緒に過ごして、いくら一筋縄じゃいかない響輔相手だからと言っても、その気になりゃいくらでもチャンスがあった筈。
敢えてそれをしなかったのは―――
イチは
サロメとは違った愛し方をできるということだ。
俺の笑みにイチは虚をつかれたように口元を引き締めて、
「かいかぶり過ぎよ。あたしはあんたが思うような女じゃない。
それより早く行ったら?朔羅の元へ」
そっけなく言って顔を逸らすと、再びアクセルを踏んで俺を振り切り、今度こそ赤いフェラーリは派手なエンジン音を立てて行ってしまった。
俺はどっちかって言うとイチよりも川上の方が響輔にはお似合いな気がするけど―――
でもどっちの女も幸せになってほしい。
はじめてそう願った。
……今あいつは愛人のクミ(金魚)に夢中~だケドな…
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