。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅲ・*・。。*・。
「知らなかった……おめぇ妹がいるんかよ」
意外な感じがしてあたしは目をまばたいた。
何の感情かよく分からないけれど、いつもの変態っぷりじゃなくて、いつになく真面目だったから、正直戸惑ったってのもある。
あたしはわざとらしく笑って手を振った。
「いるよ。たった一人だけど。歳が離れてるけど」
「おめぇ兄ちゃんかぁ。あたしは兄弟がいねぇから、ちょっと羨ましかったり。
戒は三人兄弟の末っ子だし、キョウスケも妹がいるんだぜ?
みんな賑やかで羨ましいよ」
「うさぎちゃんだっているじゃないさ~
きょうだい」
何かを含ませた意味深な笑顔に、あたしは目をぱちぱち。
「…ああ、組員のことね。あいつらはまぁそうだよな。兄貴たちだよな」
わけも分からず何故だか急に居心地が悪くなって慌てて席を立ち上がると、
「ごめん、ちょっとトイレ」
ケータイを握り締めてあたしは逃げるように店の奥にあるトイレにそそくさと向かった。
戒に電話しようと思ったけれど、掛けても電源が切られている。
「あれ……?何で?もうバイト終わった頃だよな。バイト中だからっても電源切ることはないだろうし」
う゛~ん、充電切れてる??と首を傾げながらトイレから出ると、
変態タイガも電話中だった。
いつもスーツの上着を着ているのに、何気にこの店エアコンの効きが悪いからな。
さすがに暑かったのか上着が椅子に掛けられて、白いワイシャツも腕まくりされている。
タイガは椅子に深く背をもたれさせ、
「―――…ああ、こっちは万事順調だよ。うまく行った」
仕事の電話だろうか?
いつものふざけた口調ではなかった。口元に少し冷たく見える笑みを浮かべている。
あいつのそうゆうところ見慣れないせいか、何故だか(嫌な意味で)ドキリとして思わず立ち止まる。
「カードは私の手の中。
さぁ、ヤツはどう出る?」
聞いたこともない低い声と口調。それはあたしの知ってる変態タイガの顔は微塵もなかった。
タイガがくすくす笑って、その節にあいつの袖から覗いた白い腕に目がいった。
細いのに、やっぱりきれいな筋肉がついていて、
袖から黒い絵柄がちらりと覗いていた。
あたしは目を細めて思わず近くの壁に身を寄せると、タイガの様子をそっと窺った。
タイガが黒い髪を僅かに掻き揚げて、黒い絵柄が少しだけ範囲を広げて視界に入る。
――――それはどこかで見たことのある―――…
タトゥーだった。