。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅲ・*・。。*・。
「待ってよ。そっちは危ないよ~」
おめぇが一番危ねぇっつの!
とあたしの後を追いかけてくるタイガの意見を無視して、あたしは駅への道を急いだ。
こっちの方が近道だと選んだ道は、頭上に線路が敷かれている高架下のトンネルだった。
古いトンネル内は薄暗くて、申し訳程度につけられた明かりがちらちらと揺れている。
ガタンゴトン
大きな音が頭上で響き、頻繁に電車が行き交っているのが分かる。その度に地面が僅かに振動して足元に響いてきた。
灯りが途切れる出口に向かって歩調を速めたときだった。
「おねーさん♪そんなに急いでどこ行くの?♪」
出口を塞ぐようにして、ぞろぞろと何人かの男が出てきた。
思わず立ち止まって、後ろを振り返ると、
「うさぎちゃん、待ってよ~」と慌てて追いかけてくるタイガの背後にも、いつの間にか数人の男たちが入り口を塞いでいた。
見たこともない若い男たち。見るからにガラが悪そうだったが、筋者ではなさそうだ。
だらしなく気崩したストリート系の服を着て、手には鉄パイプが握られている。
廃材工場が近くにあるのだろうか。用意がいいこって。
だけど
―――電車の音で全くその気配に気付かなかった。
こいつらはきっとあたしがこのトンネルに入っていくところから目を付けていたに違いない。
「ぅっわ…」
タイガも異様な状況に気付いたのか、後ろを振り返り顔を歪めている。
「男には用がねぇ。やっちまいな」
あたしの目の前でリーダー格と思われる男が背後を目配せして、鉄パイプを引きずった。
「まずい…状況だねぇ」
とりあえずの標的が、自分だということに気付いてないのか。相変わらずへらへらと緊張感のない顔でタイガが笑い、あたしはため息をついた。