。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅲ・*・。。*・。
「譲りたくて譲ってるわけじゃねぇよ。
大事な行事だ?できればいつもあいつが隣に居て、楽しいことを共有したいと思ってるぜ?
17歳って言う年齢はこの瞬間で、それを過ぎたらもう二度と戻ることができねぇからな。
一秒一秒を記憶に焼き付けるように…あいつとの想い出を重ねていきたいってのが本音」
一秒一秒を……
「俺、あいつに出会って実はまだ間がないし…
ホントはあいつの生きてきた16年て言う年月を知りたいし、その長い期間を俺の記憶で埋めたいってのはあるけどさ…」
あたしは頭の後ろで手を組んで、ゆっくりと前を歩く龍崎くんの背中を見つめた。
そして慌てて追いかけるように駆け寄って、隣で龍崎くんを見上げた。
「龍崎くんて時々すっごいロマンチックだよね♪女殺し」
イタズラっぽく笑うと、
「時々じゃなくていつもロマンチックなの。
何?川上、俺に惚れちゃった?♪」
とまたも冗談ぽく笑って私の肩を抱き寄せてくる。
間近に迫った龍崎くんの整った顔。
ちょっと意地悪そうに口を吊り上げた表情も、悔しいぐらいきまってるし。
でも
「惚れない」
あたしはぎゅっと龍崎くんの手をつねってちょっと睨んだ。
考えたらあたし…ヤクザ相手に結構すごいことしてると思う。
「はぐらかさないでちゃんと答えてよ。
ペアを千里に譲った理由」
あたしが呆れたように腕を組むと、龍崎くんは諦めたように吐息を吐いた。
「べつにはぐらかせてるわけじゃねぇよ。
俺だってホントは……不安だ?」
僅かに顔を俯かせて頭の後ろに手をやる龍崎くん。
その姿はヤクザの跡取り息子じゃなくて、
等身大の……17歳の男の子に見えた。