。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅲ・*・。。*・。



あたしは近くの椅子にかけてあった薄手のトレンチコートを手にした。


「気が変わったわ。


あんたの言う通り探りに行ってあげる。


あんた響輔がどこにいるか知ってるんでしょ?送ってって」


あたしはトレンチコートに腕を通すと、


「その格好で?」と玄蛇が楽しそうに口元を歪める。


玄蛇は下卑た想像であたしをからかってきたけれど、それもきっと計算のうちだろう。


あたしが「会いにいく」と言い出すことに仕向けるために。


「時間がないのよ。この数時間後に大事な撮影控えてるんだから」


「まぁその格好なら?簡単に入れそうな場所に居るが」


玄蛇は楽しそうに笑って私の腰に手を回し、前を促す。


外国の紳士がエスコートするみたいなスマートで嫌味のない動作に、あたしは「ふん」と顔を逸らした。



―――


玄蛇の運転する車に揺られ、あたしはその間無言で車の窓から外の景色を眺めた。


玄蛇の車、はじめて乗ったかも。


「あんた意外にまともな車乗ってるのね。趣味の悪いクラシックカーにでも乗ってるかと想像してた」


車はフォードのエクスプローラ。4WDの左ハンドル。


「仕事柄、実用性を第一に考えるんでね。君のフェラーリは美しいが、私の稼業には向かない」


「あっそ。ってかどこに向かってるの?」


玄蛇の話なんて興味がないあたしは短気にそう聞いた。


玄蛇がちらりとこちらを見て、ニヤリと口を吊り上げる。









「君が望む






死に場所さ」









ちょうど信号で止まっていて、その横に大きなガラス張りのビルが建っている。


そのガラスに玄蛇のエクスプローラが映り出されていて、真っ黒で大きな車体が―――





まるで死神が操る馬車のように見えた。





< 626 / 776 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop