。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅲ・*・。。*・。
ごくり、と喉を鳴らして玄蛇を睨むと、
「あたしはあんたの雇い主よ?あたしを殺してどうするつもり?」と低く聞いた。
信号はいつの間にか青色に変わっていたのか、ゆっくりと進みだす。
「私は君に金で雇われてる身ではない。よって私に損害などないのだよ?」
玄蛇は何が楽しいのか笑い混じりの声で謳うように言った。
玄蛇は右手でハンドルを操作しながら―――いつの間にか左手に握った拳銃の先をあたしの腰に突きつけていた。
コートを通してでも分かる。その冷たい感触が。
ドキリ、として目をまばたくと、玄蛇は「くっ」と低く笑い声を漏らし、
「冗談だよ。君を殺しても私に何の得もないからね。
私の信条を知っているだろう?
無駄なことはしない」
そう言いながら玄蛇はその手を引っ込めた。
はぁ
あたしは思ったより大きなため息を吐いてシートに深く背をもたれさせた。
「今はね」
再び玄蛇が喉の奥で笑って、あたしは思わず顔を上げた。
「また冗談?」
「さぁ?君次第さ」
玄蛇は楽しそうに笑って前を向いている。
「動きが見えなくなったからってあたしをからかって遊ぶのはやめてよね。
あんたこそMに見えてドSでしょ。常に“上”で支配したい立場」
「私は見たまんまドSだよ♪常に相手を“支配”することしか考えてない」
「あ、そー。響輔を“支配”するのを想像することだけはやめてよね」
嫌味ったらしく言ってやると、
「まぁタイプではあるが、支配するのなら虎間 戒の方がいいかな?
あの小憎たらしいクソガキを捻じ伏せられればさぞ気持ちいいだろうね」
「あっそー。あんた思考があたしと似てるのね。あたしが可愛い年下タイプが好きなのは、逆らわれるのが嫌いだからよ」
違うと思うけど、とりあえず言っておいた。
「私はちょっと違うかな。嫌がられれば嫌がられるほど萌えるって言うかね♪」
「……あんたやっぱドMじゃない」
「だから今私がむちゅ~なのは
龍崎 朔羅
かな」
玄蛇の答えにあたしは目をまたばいた。
「ほら、ついたよ」
車が停まり、玄蛇が視線で促したのは、
“龍崎組”と書かれた古いけど、立派な日本家屋だった。