。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅲ・*・。。*・。
*戒Side*
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** 戒Side **
響輔がイチを送り出して戻ってくるのに五分と掛からなかった。
「相変わらず、荒療治ですね」
響輔は苦笑を浮かべながら、手にしたビールの缶を俺に放り投げてきた。
それをキャッチすると、冷蔵庫で良く冷えたビールの缶から心地よい冷たさを手のひらに感じた。
熱くなった体温を冷ますのにはちょうどいい。
「てか投げんなや。泡がえらいことになるやろ」
ちょっと憎まれ口を叩くも、響輔は俺の返事を無視してマイペースにビールのプルトップを開ける。
立ったままの姿勢でビールに口をつけた。
「てかお前レポート書いてたんやないの?ええの?」
脇に避けた折りたたみ式のテーブルに乗った参考書やらレポート用紙やらは、
ついさっきまで響輔がそれに向かっていたことを物語っていた。
ちょっと聞いてみると、
「ええです。そんな気分やあらへんし。集中でけへんやろうし…。
それより―――…
憎まれ役、ご苦労さまです」
響輔は俺を真正面から見て、微苦笑を浮かべていた。
俺もそれに苦笑を返してビールのプルタブを開ける。
響輔が投げたせいでやっぱりプルタブを開けた瞬間泡が出てきた。
慌てて口を付けて泡を飲み込むと、響輔は俺のすぐ傍に座って、俺のビールの缶に自分の缶をこつんと合わせる。
返事を返さずぐいとビールを煽ると、カラカラに乾いていたビールの液体が喉を潤した。
「憎まれ役?」
俺は「へっ」と笑って、「本心やで?あの女がここに来るのは俺たちにとって危険なことや。
鬱陶しい女狐を追い払ってやったぜ」
ちょっと眉を吊り上げた。
「そうゆうことにしときましょう」
響輔は意味深に口元を緩めてふっと涼しく笑った。
まぁ…こいつとは人生のほとんどを共にしてきた仲だ。今更ごまかしも利かないだろうな…
響輔が、イチのことを―――
男女の愛情じゃないにしろ、大切に想っているのは確かだから。
響輔が守りたいもんは、
それが味方でも敵でも―――
俺が守る。