。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅲ・*・。。*・。
戒の不自然な行動に、浮気したのかどうか気になって
胸が締め付けれたかのように痛い。
息をするのも苦しくなって
あたしはそっと胸元に手を這わせて浅く呼吸を繰り返した。
その手のひらから
ズキンズキン…と胸の痛みが伝わってきそうだ。
経験のない重苦しいその痛みにあたしは顔をしかめ、目頭が熱くなる。
バイト中だって言うのに思わず泣きだしそうになって、あたしは慌てて目元を拭った。
「朔羅ちゃん、朔羅ちゃん」
おネエ店長に呼ばれてあたしは乱暴に目元を拭い、それでものろのろと顔を上げると、おネエ店長はいつも通りのにこにこ笑顔で
「夏フェアの案できた?♪」とご機嫌に聞いてきた。
「…あ、それなら…」
こないだ戒とリコと書いたレポート用紙が制服のスカートのポケットにしまってある。
いつでもおネエ店長に提出できるように。
しかし
「夏フェアってなんですか?」
とあたしたちの会話を近くで聞いていたのだろうか、
新垣 エリナがおネエ店長に聞いてあたしは折りたたんだレポート用紙を思わず引っ込めた。
おネエ店長は新垣 エリナに『夏フェア』の概要をかくかくしかじか(簡単に)話し、
「それなら、このすでに既存のメニューであるトロピカルアイスティーをご注文のお客様限定に、
サービスでゼリーなんかをお出しするのはどうでしょう?」
と新垣 エリナは無駄のないハキハキとした受け答えで提案した。
「トロピカルアイスティーにゼリーを?」
「夏だしゼリーなんか食べやすいと思うんです。カットイチゴやマンゴー、メロンなんかの当店オリジナルゼリーなんてどうですか?
シンプルだけど、スイーツ好きのお客さんはどんなものか気になるはずです。
トロピカルアイスティーは単価も高いし、売り上げが伸びれば利益もすぐに出ます」
あたしが数日間悩みに悩んだアイデアを、新垣 エリナは(違う案だが)あっさりと提案した。
しかも経理的なことも提案して。
あたしはまったくの無計画だったから、ただメニューを開発しただけだし。
「それは面白そうね!♪さっそく閉店後にパティシェと商品開発しみてるわ♪」
おネエ店長はわくわくと厨房に入っていった。
あたしは―――
新垣 エリナよりずっと早くから悩んで、提出するだけにしていたのに
それも
新垣 エリナの案に先を越されて、採用された―――