。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅲ・*・。。*・。



気を取り直して…


あたしは鍋の中に入った小さなタマネギたちの様子を見るフリでさりげなくキョウスケに聞いてみた。


「なぁお前今日、新垣 エリナの様子見に来たんだろ?


あの子……どう思う?


戒のこと……す…好きなのかな?」


たっぷり時間を掛けて聞いてみたのに…


「分かりません」


1秒も開けず、即答!?


「おめぇもうちょっと考えろよ!」


思わずキョウスケを睨むと、




「本当に分からないので、安易なことは答えられないです。



『違うと思いますよ』って答えてお嬢を安心させるのが一番良いと思いますが、もし違ったら―――?

後からショックがでかいだろうし…



『そうかもしれません』て答えて悪戯に不安にさせるのもよくないですし」





キョウスケは―――いい加減なことを言わない。


いつでも真剣に考えて、真面目に答えを出してくれる。


「怒鳴ったりしてごめん…」


あたしがシュンと項垂れて言うと、


「お嬢の暴言には慣れてます。今更何とも思いません」


とまたも1秒も開けずに答えが!しかも真顔。


「てめぇ、そこは“いいえ、気にしてません”だろが!


ちょっとは乙女心を考えろっつうの!」


「お嬢が乙女……!?」


ここでキョウスケはようやく驚いたように目を開いて、あたしはマジで鍋をキョウスケに投げつけてやりたくなった。


まぁキョウスケの失礼な発言はおいといてー…






「な、なぁ…お前、浮気したことある?」





冷蔵庫を開けていたキョウスケがちらりと振り返る。


その顔は相変わらずの無表情。


こ、この質問はさすがにまずかったか!?


「……おめぇに限ってそれはないか…」


「何でそんなこと聞くんですか」


キョウスケは冷蔵庫の中からわさびのチューブを取り出して、深くは気にしてない様子。


「いや、ちょっとさ~リコとそうゆう話になって」


ごめん、リコ。あんたを話題にしちゃって。しかも嘘だし。


「リコさんが?」


「あ、いや!あのサ、おめぇが浮気したかどうかを話してたワケじゃねぇんだ。


ま、まぁ…お前は誠実どうのこうの前に、浮気するバイタリティーもなさそうだし。


お前面倒くさがりだしな。


一人の女も持て余してそうだしな」


あたしはわざと明るく笑うと、


「当たってるだけに何も言い返せないです」とキョウスケは素直に頷く。


「で、でもさぁ…お前に彼女とか居る設定でだよ?


んでもってお前のタイプな超可愛い女が言い寄ってきたらどうする?」


あたしはまたも小皿に向かってるキョウスケを覗き込むと、キョウスケはちょっと身を後退させながら目をぱちぱち。


「状況にも寄りますが。やっぱり浮気はしないと思います。


裏切る裏切らないの前に、


あとからゴタゴタするのを考えると、やっぱり面倒なんで。


俺、器用じゃないですし」


あたしはちょっと呆れたようにキョウスケを見ると、


「おめぇに聞いたあたしがバカだったよ。ちっとも参考にならん」


がくりと項垂れた。


鴇田は極道の男は女を大切にするって言ってたけど、その意味とはまた違う。


キョウスケは…単にものすごく面倒くさがりなだけだ!!


まぁある意味女にとっちゃ良いのか??





「と、まぁそれは冗談で。


俺、やっぱり付き合ってる子は大切にしたいし、



その大切な人を―――いっときの自分の感情や都合だけで悲しませたくないって言うか」




キョウスケは、今日はじめてにっこり穏やかな笑顔を浮かべると、再び皿をテーブルに置いた。


キョウスケ―――…


てかあの顔で冗談とか言われましてもねぇ。





大切―――か…




やっぱりキョウスケと付き合う女は幸せになれるよ。




鴇田の言ったことは


やっぱり本当だってことだ―――…と思う。てか思いたい…





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