。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅲ・*・。。*・。
そう言われて俺は慌てて顔を上げ、腹から手を離した…が、もう遅い。
響輔は唇を引き結んで、
「見損ないましたよ」
と冷たく一言。
「だから、してへんて」
俺が顔を逸らして少し強めに言うと、
「じゃ何があったんですか」
と響輔も苛立ったように聞いてくる。
「今は―――言われへん」
俺の返答に
「それで納得するとでも?」
とだけ短く答えて、響輔が出て行こうとした。
「もう戒さんにお嬢を任せておけません。
あなたは一瞬でもお嬢を悲しませたこと、一生後悔しててください。
俺だったらあの人を泣かせたりしいへん」
響輔の視線とドスを含ませた声はまるでナイフの切先のように尖っていた。
出て行こうとする響輔の肩を掴んで、俺は響輔を振り向かせた。
「待てよ。お前、朔羅をどないするつもりや」
「どないするって戒さんには関係あらへんでしょう?」
響輔は乱暴に俺の手を払い、
「戒さんのしたこと、許されへんで」
と温度の感じられない声で一言呟く。
「だから何もしとらへんて!!」
「じゃぁ何で説明してくれへんのですか!」
響輔が珍しく声を荒げて怒鳴り声をあげた。
「だから!今は言われへんて!!
お前だってあるやろ!言われへんこと!」
俺の一言に響輔はちょっと唇を引き結び、
「俺の気持ち知ってはるでしょう?
何で話してくれへんのです?
言われへんて納得いかへんです。
戒さんはお嬢だけやなく、俺まで裏切ったんやで―――」
裏切った―――…
そんなつもりは―――
俺は拳をぐっと握った。
すぐ喉元まで言葉が出かかった。
もういっそのこと全部話してしまおうか―――、一瞬、そう思ったが、
でも言うわけにはいかない。新垣 エリナと約束したことだから―――
何より、新垣 エリナのプライバシーに関わることだ。
彼女の姿を思い浮かべて―――それが一瞬だけ
―――朔羅の姿に重なった。
俺と朔羅がはじめて二人でホテルに入ったとき、あいつがベッドの上で告白してきたときの、あの悲痛なまでの表情と。
「もうええです。
戒さんがそのつもりなら、俺がお嬢を―――」
響輔が言って今度こそ出て行こうとする。
“俺がお嬢を―――”
その一言を聞いて、俺の中で何かが
切れた。