。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅲ・*・。。*・。
一通り喋り終えて、あたしは大きく息を吐いた。
リコは目を開いたまま、微動だにせずに固まったまま。
さすがに雪斗に包丁を向け、生きているかどうか分からない状態のあいつを叔父貴が連れ出したことを説明するときは、手に汗が滲んだ。
「……ごめん、聞かせるべきじゃなかったよね。こんな話……」
「……ううん……あたしだって……もし同じ立場ならそうしてたと思う……」
リコが僅かに首を振る。その顔に哀れむような悲しむような……とにかく一言で言い表せない複雑な表情が浮かんでいた。
「ううん!喋ってくれてありがとう!ありがとうってのは変か……
でも納得がいった。朔羅がクラスメイト…ううん、他の男子を毛嫌いしているワケが」
リコが慌てて言ってあたしの両手を取った。
その手はあったかくて優しい―――手付きだった。
あたしの手はヒトゴロシの手なのに、だからリコのあったかい体温に包まれてもその熱が伝わってこないと思ってたのに…
何でかな……すごく温かくて心地良い。
いつか……そう、あれはキョウスケが熱を出して見舞いにきてくれたときの。
あたしがリコに気持ちを伝えられたときの。
あのときのあったかくて優しい体温。
リコは今にも泣き出しそうに瞳を潤ませ、心痛そうに眉を寄せていた。
「大変な想いをしたんだね……ごめんね、あたし……気付かなかった……
気付いたとしても……やっぱり朔羅の負った心の傷はあたしには分からないだろうけど…」
リコ―――……
「あたしね……未だに若い…って言ってもその幅は何とも言えないけど、男が苦手なんだ。
組のもんや、戒やキョウスケ―――叔父貴も大丈夫だったんだけど……」
「うん……」
「戒はこのこと知ってる。ってか自分から話した。でもあいつ離れていかなかった。変わらずあたしを好きって言ってくれて、
あたし、
嬉しかったんだぁ」
言葉だけじゃない。
あいつはいつだってあたしを気遣ってくれて、叔父貴と何かあったって気付いているのに、あいつはあいつなりの配慮で、
何事もなかったように普段通り接してくれる。
でも必要以上にあたしの内側に入り込もうとしない。
その距離感が―――少し嬉しかった。
でもそれと同時に、そんな気遣いをさせているのが
心苦しかったんだ。