。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅲ・*・。。*・。



戒にだけしか聞こえない小声で言うと戒はまたも目を開いて、


あたしの手の上からぎゅっと手を重ねてきた。


その手は風呂あがりだと言うのに、いつもの戒の体温より少し低めで


でも


その体温をゆっくり感じる暇もなく戒の手は遠ざかっていった。


キョウスケは殴られたときに唇を切ったのか僅かに口の端に赤い血が浮き出ていて、それを乱暴に手の甲で拭いながらもあたしから目を逸らす。


ま、まぁ?戒に殴られたぐれぇでダメージを受けるヤツじゃないからこっちは大丈夫か。


色々聞きたかったけれど、


「ほら。ちゃんと体拭いて着替えてきな。喧嘩は組ン中じゃご法度だ」


ユズや壱が居る手前、深くは聞けず


あたしは戒の背を押すと、脱衣所に押し込めた。





――――…


「しっかし派手にやったなぁ。おめぇ歯折れてねぇか?」


殴られた方のキョウスケも心配で、あたしはキョウスケが居る台所に向かうと、すでにタクに手当てをされている最中だった。


「…大丈夫です。ってか、痛っ。


タクさん、もっと丁寧にやってください。


俺こう見えて怪我人なんです」


消毒液が染み込んだ脱脂綿を口元に当てられていたキョウスケはタクの手付きに文句。


随分態度のでけぇ怪我人だ。


タクは気を悪くした様子もなく


「あはは、わりーわりー」と笑っている。


こっちは…大丈夫そうだな。


相変わらずだ。ってかおめぇらも何気に仲良いよな。


タクはここでは歳が若い方だし、タクにとってははじめてできた弟(キョウスケ)の面倒を見てるって感じだけど。


「タク、ご苦労だったな。あとはあたしが変わる。お前は部屋に帰ってな」


あたしが廊下の奥を顎でしゃくると、タクはちょっと不思議そうに目をぱちぱちさせたものの、


「へぇ。じゃ、お願いしやす」


と言って大人しく廊下に出てくる、も。


ピシャリ


台所の戸を閉めたあとちょっと気になって再び戸を開けると、タクは台所の戸に聞き耳を立ててこっちの様子を盗み聞き。


「おめぇは、何やってんだよ!消えな!!」


あたしが怒鳴ると、


「す、すいやせんでしたー!」と慌てて逃げていく。


タクのやるぉおぅ。盗み聞きなんてしやがって。


あたしとキョウスケとの仲をまだ疑ってやがんだな。






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