。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅲ・*・。。*・。
「エリナ、どうしちゃったんだよ」
コーチがちょっと苦笑いで手を伸ばしてきた。リングが光る左手を。
地面に落ちた、ぬっと伸びたその黒い影にあたしは目を開いた。
この感じ…
すごくイヤな感じだ。
あたしの全身に鳥肌が浮かびあがり、額には脂汗が浮かんでくる。
バッ!
あたしは無意識に男の手を払って構えの姿勢に入った。
無言で睨み上げるあたしに男は目をまばたきさせて払われた手を呆然と見つめている。
「…結構な力だね。空手でもやってるの?」
男は払われた手を撫でさすりながら、取り繕ったように苦笑い。
あたしは新垣 エリナの手首を掴むと、
「行こっ」
小さく促して、歩き出した。手を引かれた新垣 エリナが慌てて歩き出す。
「ちょ、ちょっと!」
男が追ってきてまたも手を伸ばしてくるが、あたしはその手首を掴んで捻り上げた。
今度こそ男が驚愕の表情を浮かべて小さく悲鳴を上げる。
「触んな」
低く吐き捨てるように言い、男からまたも乱暴に手を離すと男は慌てたように手を元に戻した。
男が呆然とあたしたちを見送っている。
あたしはその視線から逃れるように、新垣 エリナの手を掴んで足早に先を急いだ。