。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅲ・*・。。*・。
キョウスケはちょっとびっくりしたように顎を引いて、体を後退させる。
「てめ、何逃げようとしてんだよ」
ちょっとキョウスケを睨むと、
「いえ……ここ、お嬢の部屋だし……」
とキョウスケがちょっと俯く。
………
キョウスケの言った意味が分からず最初きょとんとしたものの、その意味を数秒遅れで理解できた。
だってキョウスケだし。
こいつ全然危険な感じしないもん。
戒より断然安全だし。
あいつ黙ってりゃ、大人しくしてりゃあたしのぬいぐるみコレクションの一つみたいに溶け込んでるのにな。
残念、あたしのお部屋に来て大人しくしてろって方が無理な話だ。
あのエロ魔人!
「俺の話聞いてます?」
自分から距離をとったくせに、いつの間にかキョウスケがすぐ近くに来ていて今度はあたしの方がびっくり。
「き、聞いてるヨ!」
慌てて答えると、キョウスケはほんの少し笑ってまたも不自然じゃない素振りで距離をとった。
キョウスケは―――全然イヤな感じがしなくて
いつもあたしの間合いを計ってくれて、あたしが不快に思う距離には無断で入ってこない。
それがキョウスケの気遣いだと分かってても、あたしは―――その優しさにいつも甘えている。
応えられないと分かっているのなら尚更―――
甘えちゃいけない。
あたしは何でもないように笑って、それでもすぐに表情を引き締めた。
「今日さ、新垣 エリナが前在籍してたテニス部のコーチだとか言う男に会ったんだ」