。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅲ・*・。。*・。
わぁわぁ喚いているあたしを宥めるようにキョウスケは両手を挙げて
「相手にも寄りますが、俺は今の立場でリコさんとばったり会ったら
“リコさん”って声を掛けますよ。
―――…一結だったら……気付かないフリ。
見つからないように隠れます。
つまり、声を掛けるのは少なからずその人が気を許してると思いますけどね」
リコ…良かったな!キョウスケはあんたに気を許してるって!♪
しかしイチの場合は無視とか……しかも隠れるって…相当だな。
「つまりだ?
コーチの方は新垣 エリナに気を許してるって感じで、それに応えなかった新垣 エリナは気を許してないってことだよな」
あたしが指を突き立てて真剣に考えると、
「新垣さんのそのときの様子はあまり友好的ではなかったと?」
「うん。何か嫌がってたみたいだし…」
あの独特のイヤな感じ……
「以前ストーカーに遭ってたとおっしゃまいしたよね?
そのストーカーのヤツがそのコーチなんじゃ…」
「…うん。それも考えられる。
しかも、その男結婚してるみたいだった。不倫とかリコは噂してたけど、既婚者の男から一方的に言い寄られてるのかも…って感じもした。
あくまで想像だから…確かめたわけじゃないし、分かんないけどさー…」
「そんなこと確かめられないですよね。想像ならいくらでもできますが」
キョウスケが目を細めて遠くを見やる。
「気の弱そうなか弱そうな女の子でしたからね…もしそうなら誰にも相談できずに悩んでるのかも…」
「そうだよなー…んで意を決して戒に相談したってところか…」
「それで戒さんが胃を壊して、負のスパイラルですよ」
キョウスケはため息を吐いて、ベッドの背にもたれる。
珍しいな…こいつが弱気になってるの。
やっぱり戒が具合悪いから―――…かな。
双子ってどっちかが具合悪いと片方も具合悪くなるって言うじゃん?
あんな感じかな。
ってこいつら双子じゃないし実の兄弟でもないケド。
あたしのベッドで疲れたように臥せっているキョウスケはマクラ(アザラシのぬいぐるみ)を抱きしめながら、
「俺の中でこれはチャンスだと言ってる。
戒さんが弱ってる隙だと…」
とブツブツ。
言ってねぇよ!
全然大丈夫そうだな、おいっ!