。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅲ・*・。。*・。



眠れなくて、でも何か考えてないと不安で…


あたしはあのおにーさんにもらったヒツジを意味もなく眺めた。


白いふわふわのボディーに黒い丸い目が可愛いヒツジ。


短い手足の先っちょも黒い。平和そうな笑顔が何だかあのお兄さんに似てる。


そのふわふわのボディーをちょっと撫でると、


ふわり…


どこかで嗅いだ覚えのある爽やかな香りが漂ってきた。香水かな。


あのお兄さんの移り香…?


でもあのお兄さんからはこの香水が香ってこなかった。


「どこでくっつけてきたんだよ、お前~」


とヒツジに笑いかけると、ヒツジは「にひっ」と、はにかみながらもちょっと笑った…気がした。


でもこの香り…、どこかで嗅いだ記憶が…




なんて考えながらいつの間にかうとうと。



―――



泡沫の眠りのなか、また―――夢を見た。


遠い記憶。


あたしがまだちっさい頃。


縁側で降り散る桜の花びらをあたしは眺めていた。


『朔羅、桜の木がピンク色なのはどうしてか知ってるか?』


誰だか分かんないけど男の膝の上にちょこんと座らされて、男が優しく問いかけてくる。


口調は叔父貴や親父みたいに優しかったけど、でもそれは叔父貴でも親父でもなかった。


あったかい膝の上。


男が纏う柑橘系の爽やかな香りに包まれて―――心地よかった。


『分かんない』


あたしは顔を上げて首を横に振った。


男の顔は逆光で良く見えない。


男はあたしの頭をぐしゃぐしゃと撫でて、



『それはな~、朔羅みたいな可愛い妖精さんが白いお花に魔法を掛けてるからだ』



優しく…いっそ無邪気と言った言葉がぴったりくるだろうか、男が笑って


あたしは目を輝かせた。


『妖精さん!?魔法??』


この頃の女の子ってこうゆう言葉大好きだよな。


あたしはびっくりしながらも、その先の話をせがんで男の腕を掴んだ。




『ねー、その先はぁ?


教えて~』






男があたしの髪をまたも撫でてその顔が陽光の中、露になった。


その顔は





タチバナ





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