。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅲ・*・。。*・。
あたしの言葉にキョウスケは一瞬目を開いたものの、
「……で?」
と目を細めて聞いてきた。
「え…?…で、って…」
「お嬢の記憶を疑うつもりもありませんが、それは過去のことでしょう?
そもそもタチバナの共同経営者の彩芽さんはドクターの恋人ですよ。
誰がどこかで繋がっていたのか、なんてあまり関係ないんじゃないですか?」
キョウスケは無表情に淡々と言って、
「そ、そりゃそうだな…」
あたしはしょんぼりとアルバムを閉じた。大発見だと思ったのになぁ。
キョウスケの言った通りだ。
叔父貴が高校生のときなんて十年も前の話だし、今あいつが…タチバナが何をやってるのか知らなきゃ意味ないよ。
「会長に聞くってのもありますけれど」
キョウスケはちょっと考えるように顎に手を置いて
「でも、ここに来るってことは会長が何者か、少なくとも向こうは知っていたようですね」
「どー見ても筋もん……には見えないんだけどな…
千里のおっちゃんの方がよっぽどヤクザっぽいぜ」
「そう言えば一ノ瀬くんも見たことある…って言ってましたよね?」
「あ、うん…でもあいつもあたしと負けず劣らずバカだから、あんま参考にしない方がいいよ?」
「お嬢に言われたら一ノ瀬くんも可哀想ですよ」
キョウスケが真顔で突っ込みを入れてきて、あたしはキョウスケを睨むとキョウスケは慌てて顔を逸らした。
そのときだった。
トントントン…二階から階段を降りる誰かの気配があった。
「やべ」
ここでこそこそ話してるのがバレたら、また変に勘ぐられる。
「ごめん、キョウスケ。起しちまって」
「いえ、俺こそすみません。わざわざ教えにきてくださったのに」
「ううん。思い出したこと早く言っちまわないとあたし忘れっぽいし~」
あたしはそれだけ言うとさっと踵を返した。
「お嬢」
部屋に向かおうとしていたあたしをキョウスケが呼び止めた。
あたしは顔だけを振り向かせると
「ありがとうございました」
キョウスケはうっすら微笑みながら僅かに手を挙げた。
「あ、うん!」
“ありがとう”なんて言われること、あたし何にもしてないけど、キョウスケは優しいから
きっと気を遣ってくれたに違いない。
あたしはアルバムを抱えなおすと、部屋へ急いだ。