。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅲ・*・。。*・。
―――戒の部屋の前で、あたしたちは何となくギクシャクした雰囲気の中、
「…じゃな」
あたしは手を挙げて自室のある方を見た。
「じゃ」
戒も軽く手を挙げる。
だけどまっすぐ部屋に戻りたくない。
あたしは戒の横で俯いたまま、突っ立っていて、戒も部屋の襖を開けて中に入ることはしなかった。
「…か、戒…部屋に入んないの?」
「お前こそ、部屋に行かないのか…?」
そうぎこちなく聞かれて、あたしはまばたきをすると思わず戒のカットソーの裾を引っ張った。
「まだ一緒に居たい」
戒が驚いたように目を開いて、あたしを見下ろしてきた。
そのときだった。
「今日はマジで暑かったな~。事務所のエアコン壊れててよー」
「そりゃ地獄だな。会長に言って直してもらおうぜ」
「誰が言うんだよ俺イヤだぜ?」
「俺だってイヤだ」
「お嬢に頼むか」
組員数人の話し声が聞こえて、足音が近づいてくる。
やば…
あたしは戒のカットソーから手を離して、今度こそ部屋に戻ろうとしたが
戒の手があたしの手を取り
引き寄せられて、抱き寄せられると
戒は襖の扉を開いてあたしを引っ張った。
コンッ!
乾いた音を立ててマグカップが床に落ちる音と
パタン
襖が閉まる音を聞いた。