。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅲ・*・。。*・。
「久しぶりに一線交えないか?」
スネークはにこにこ笑顔で男を見ると、持ってきたチェス盤を手で指し示した。
「夏の夜にチェスかい?粋な趣向だね」
男も笑って促されるまま、スネークの向かい側に腰を降ろす。
スネークは黒。
男は白の駒を動かすことになった。
「白と黒。まるで我々の関係みたいじゃないか。白はもちろん君だ。先行どうぞ」
促されるまま男は白い駒を移動させる。
「昔は良く二人で対戦したものだ」
どこか懐かしむように男はうっすら笑った。しかしすぐ表情に翳りを滲ませて、寂しそうに吐息をついた。
「いつから私たちはこうやって顔を合わせることがなくなったのだろうね」
「しょっちゅう顔を合わせてるじゃないか。
お互い別の顔で」
スネークは黒のナイトを動かす。
スネークの指した手に、か。それともスネークが発した言葉にか。男の方が怯んだように少しだけ眉をしかめた。
しかしすぐに退路を作るようにポーンのコマを移動させる。
男は目を伏せて薄く笑った。
「真っ向勝負とは君らしいな」
「私は回りくどいやり方でじわりじわりと攻めていく君とは違うんでね。
龍崎 朔羅たちに再三に渡って“忠告”したのは君だな。
“スネークに狙われている”と。
“白へび”」
スネークは単三電池ほどの大きさの空薬莢を親指と人差し指の間でかざし、
「返すよ。君のものだ」
男―――…いや、“白へび”に見せると、それを白へびに放った。