。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅲ・*・。。*・。
「こんばんは。こんな時間にすみません」
彩芽さんの今日のお着物は、鮮やかな水色地に白い小花をあしらったもので、帯は白と黒の柄模様だった。
センスが良いって言うのかな。難しい組み合わせなのに、それを見事に着こなしている。しかも可憐な彩芽さんに凄く似合ってるし。
「……あの…どちらさまで……」
マサがたじろいだように…だけど明らかに動揺しながら慌てて頭に手を置いた。
「申し遅れました。わたくし御園医院で医者をしております鴇田の知人で、彩芽と申すものです。朔羅お嬢さんはご在宅でしょうか?」
彩芽さんはおっとりと、だけどその言葉には無駄がない喋り方をしてマサを見上げていた。
「…お嬢に?」
マサがいぶかしむように声を低め、
「彩芽さん!」
あたしは慌てて玄関に走って行った。
「朔羅ちゃん。良かったわ」
彩芽さんは、少しだけほっとしたように頬を緩め、可憐に微笑んだ。
―――
「お夕飯前だろうし、私もお店に向うついでだったからすぐにお暇します」
と、彩芽さんは言ったけど、このまま玄関口で「さよなら」じゃちょっと悪い気がした。
何せ彩芽さんは、あたしがドクターの家に置き去りにしていった金魚たちを、わざわざ届けてくれたのだ。
どこに置き去りにしてきたのか、あのときの記憶は未だにはっきりしないが、彩芽さんが届けてくれたってことはドクターの家まで、あたしは金魚たちと一緒だったってわけだ。
彩芽さんの登場で、組のもんはそわそわ浮き足立っている。
思わぬタイミングで、思わぬ美人が訪れてきたからな。
台所で夕飯の支度を手伝っていた戒も、
そして彩芽さんのすぐあとに帰ってきたキョウスケも、何事か居間を覗いていた。