。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅲ・*・。。*・。
和服だからそう遠くまで行っていないだろう。
龍崎家を飛び出ると、一つ目の曲がり角の手前に彩芽さんの後ろ姿を目に入れた。
「待てや」
俺は自分を取り繕うことなく、直球で声を投げかけた。
この女は事情を知っている。
腹割って話したいのに、ネコ被ってたら向こうだって警戒するに決まってる。
「来ると思ったわ」
案の定、彩芽さんは俺の登場にもさほど驚いた様子も見せず、にこやかに振り返った。
「あんた、何もんや」
俺がまたも直球で問いかけると、彩芽さんはふわふわと笑った。
「言ったでしょう?衛さんの恋人だって」
「ホンマか?」
疑うような目で彩芽さんを睨むと、彼女は小さな吐息をついて、
「恋人だと証明するものなんてないわ。結婚してるわけじゃないし」
と、小鳥のように笑う。
笑い方は穏やかで、嫌味なんてこれっぽっちも感じられなかった。
何ていうか……リズムが狂わされる。
朔羅のように分かりやすく警戒してくれたほうがまだやりやすい。
それに俺の睨みにも動じない場慣れした感じ、それだけならまだしも彼女からはまだ余裕が溢れていた。
大人の女ってヤツか。
「いきなり女性を引き止めて、何者呼ばわりはよろしくないわ。
女性に身分を聞くときは、まず自分から名乗ることね」
彩芽さんは、またも嫌味のない笑顔を俺に向けると、ペコリと一礼して踵を返した。