いつまで経っても

何したいの?


「…ここには俺とお前以外いない。諦めろ」

 何故か私をベッドに押し倒している奴…幼馴染み殿は、鼓膜を優しく震わせる美声で淡々と言い退けてくださりました。


…また心読まれてるし。
何故わかるのでしょうかねぇ?顔に書いてありますか?そんな発声要らずの便利な芸当、身に付けた覚えはありませんな。


 と、いうか――


「わかってるなら、自ら解説をオネガイシマス。…この体勢、何のつもり?――あ、もしかしてプロレスやるの?懐かしいね~」

 おどけて言いつつ、試しにのし掛かられた足を動かそうとするも、ピクリとも動かせない。それでいて幼馴染み殿に掴まれた腕やのし掛かられた足に痛みはなく……力加減にまで天才っぷりを発揮しなくてもいいだろうに。


 過去、私達が中学に上がる前まではプロレス技を掛け合っていたね。当時の幼馴染み殿は私より背が低かったから、私が組敷く側だったな。…現状とは真逆の体勢。



――まさか、仕返しとかみみっちい事を考えてる?
 その為にわざわざ仕事帰りを狙って、私の部屋の前で座り込んでいたとか?


 今日この日、奴とはなんの約束も交わしていない。

 幼馴染み殿と疎遠になり始めた15歳以降、まだ私が実家の…本店の2階に家族と共に住んでいた頃なら週に2度くらいの頻度で顔をあわせていたが、18歳になり私が2号店を任され独り暮らしをするようになってからは、一年に2回…盆と正月に会うか会わないかだ。

 そして、幼馴染み殿は一度も2号店に顔出しせず、私の部屋にも来たことがない。

今回が初おとないなんだが……幼馴染み殿は、私が一人になり仕事で疲労し弱まる機会を見定め、奇襲をかけるほど私を怨んでいたのだろうか?。
 子供の頃唯一負けたプロレスが、それほど矜持を傷つけるものなんだろうか……

 いやいや、やられた方は何年経っても覚えているそうだ。子供の頃といえど男は男。私にとっては唯一幼馴染み殿に勝てた輝かしい記憶でも、コヤツにとっては男の矜持を傷つけられた苦い思い出なのかもしれない。

まずいな…根が深そうだ。 かれこれ7~10年前から蓄積された年代物だ。

 幼馴染み殿は決して力に訴える暴君ではなかったように思う。そんな奴が力業に出たならば私が気づかなかっただけで、その他にもしでかした諸々が合わさった結果であろうから…積怨ってやつか。

 珍しくも雪がちらつく今宵、玄関前で置物のように固まっていた奴を招き入れた私が阿呆だったんだな…油断したよ。
 流石だ。私の事を理解していると公言するだけのことはある。疎遠になっても行動パターン・体力までお見通しとは恐れ入った。
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