いつまで経っても


 さて、この根深い怨み…潔く敗けを認め甘んじて受け入れるべきか否か。
 そもそも私が悪いっぽいしな。激痛を伴うならご遠慮願いたいところだが…。

「…痛みはある。けど、お前が協力的ならマシになるかもな」

 更に身動きを封じるためか、奴は囁きながら私の上に覆い被さってきた。
 私の安い給料でなんとか購入したパイプ製シングルベッドがギシリと軋む。

 奴のすらりと長い足と私の大根短足、触れて初めて気づく意外にガッシリと厚い胸板と私の貧乳が重なり……ええ、双子山の標高が低いために布越しでも伝わる奴の引き締まった腹肉とバターでたゆんだ私の腹肉がぴったり隙間なく合わさりましたよ。


 ふふっ。プロレス技を繰り出す前からダメージを与えるとは…そつがないね。

 私は普段体型を気にしない。体型を気にしていたら美味しいパンの研究などできないからだ。
 日々新しい天然酵母 食材を試し新商品の企画開発 試食を繰り返し月初めには、新商品を最低5つ発売せねばならない。勿論、パンのカロリー計算は欠かさないが、試食量が桁違いなのだ…丸々一個食べなければ商品の真髄は判断不可能だし、バターと小麦粉、砂糖、肉をなめてはいけない。野菜にもカロリーはある。
 通学と体力仕事で限界まで体を駆使しても尚、摂取カロリーの方が多いらしい。

 故に、とうの昔に体型を気にする類いの乙女心は捨て去った筈なのだが……獣のようにしなやかで鍛えられた体躯と密着すると、かつて乙女心が存在していた虚に熱風が吹く。捨てても、かつては確かに存在したと主張する。



――さっさっと終わらせるに限るな。余計なモノを思い出す前に。



 幸い、協力すればさほど痛くないそうだ。ならば抵抗して無駄に時間をかけるより、スムーズに終えてくれた方が…助かる。

 具体的な“協力”とは何を指すかは解らないが、とりあえず全身の力を抜く。深呼吸を数回繰り返し、じっと私の目を凝視している幼馴染み殿に頷いてみせた。


「わかった、協力する。……だから、なるべくスムーズかつ痛まないように頼むよ。かなり久し振りなんだ」

 プロレスごっこは。
幼馴染み殿としたのが最後だから、約8年ぶりか?

 私の言葉を耳にした瞬間、幼馴染み殿の目付きが鋭さを増した。切れ長の一重瞼が醸し出す流麗な和の気品が際立ち、いっそう硬質な艶を湛える。


――珍しいな


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