とある堕天使のモノガタリⅤ
~TRINITAS~
時間にしたらそんなには眠って居なかったはずだが、その短い時間で夢を見たような気がする。
黒く艶やかな毛並の猫が、大きな瞳で忍を見つめていた。
その猫はルークだった。
だが、夢の中の自分はルークではないと言う。
夢というのは現実にはあり得ない事ですらあり得る。
それは脳が見せる幻覚だったり、遠い記憶だったり…。
それでも夢の中ではそれが正しく、否定する存在は居ない。
故にこの猫はルークではなかった。
硝子玉のような丸い瞳がジッとこちらを見ている。
その煌めく瞳から視線を逸らせなかった。
そして猫は瞬きをし、少し目を細めて笑った。
“猫が笑う”なんて現実的にあり得ないが、これは夢。
だから忍はそれに対して動じる事もなかった。