とある堕天使のモノガタリⅤ
~TRINITAS~
一見なんのヘンテツもない箱だが、右京は違和感を感じた。
それが何故なのか解らなず眺めたまま顎に手を当てて唸る。
『なんかオカシイんだけど…』
『あぁ…“位置”が妙だ。』
即答したクリスに彼は『そうか!』と手を打った。
これだけの大きさがあるのにまるで動かした形跡がなく、部屋の真ん中に鎮座している。
『動かしたくても動かないんだもの…』
イザベラの話では腕っぷしのたつ劇団の大道具要員ですら動かせなかったとか…。
試しに右京は箱の横に手を掛け、力一杯押してみるがびくともしない。
クリスはポケットから万能ナイフを取り出すと、底部分を抉るように刃を当てる。
『右京、やめとけ。無意味だ。』
『え?なんで?』
『…これはただの箱じゃない。』
クリスは声を潜め、右京にだけ聞こえる声でそう言った。