とある堕天使のモノガタリⅤ
~TRINITAS~
『ロバート、殆ど残業しないでしょ?噂じゃ奥さんが入院中らしくてね…』
『えっ…?奥さん…?』
隣の先輩である女性行員のお喋りに思わず耳を疑う。
『ええ、もう2年くらい前からなんだけど─』
その先の話は憶えていない。
彼が結婚していたという事実に頭が真っ白になっていた。
…私に向けるあの優しい笑みも、甘い囁きも…全て嘘だったと言うの!?
頭の中ではそんな考えばかりが渦巻いていた。
思い返せば彼はイザベラとの関係を隠したがっていた。
『僕はもう歳だからねぇ…君みたいな若くて綺麗な女性と居たら、僕が騙したみたいに言われるだろう?』
彼はそう言っていた。
真意は『周りは自分が既婚者である事を知っているから』という事だったのかもしれない。