とある堕天使のモノガタリⅤ ~TRINITAS~



『そんなのは“慈悲”じゃねぇ!』



クロノスが右京の言葉に微かに眉を動かした。



『イザベラは人道を踏み外した。ならばそれを正してやるのが神の務めだろっ!』



─偽善だ。そんなのは人間が勝手に造り上げた理想像に過ぎない。



クロノスの眼差しが鋭く光ったかと思うと、イザベラが高く杖を振り上げた。



『…っ!?』




アロンの杖が炎を纏うと、それが右京に襲いかかった。



皮膚の焼ける臭いにクロノスは祈るように目を閉じた。



─憐れな…。所詮我等には敵わぬというのに…。



そう言って彼は背を向け言い放つ。



─女よ。お前の命を糧にウリエルを焼き尽くせっ!



イザベラが無言で杖を握る手に力を込めると、炎が勢いを増した。




< 255 / 469 >

この作品をシェア

pagetop