とある堕天使のモノガタリⅤ
~TRINITAS~
『そんなのは“慈悲”じゃねぇ!』
クロノスが右京の言葉に微かに眉を動かした。
『イザベラは人道を踏み外した。ならばそれを正してやるのが神の務めだろっ!』
─偽善だ。そんなのは人間が勝手に造り上げた理想像に過ぎない。
クロノスの眼差しが鋭く光ったかと思うと、イザベラが高く杖を振り上げた。
『…っ!?』
アロンの杖が炎を纏うと、それが右京に襲いかかった。
皮膚の焼ける臭いにクロノスは祈るように目を閉じた。
─憐れな…。所詮我等には敵わぬというのに…。
そう言って彼は背を向け言い放つ。
─女よ。お前の命を糧にウリエルを焼き尽くせっ!
イザベラが無言で杖を握る手に力を込めると、炎が勢いを増した。