とある堕天使のモノガタリⅤ
~TRINITAS~
右京はアロンの杖をクロノスに突き出す。
─…なにを…?
『彼女の望みを叶えるなら“自分の手”で叶えてやれ。』
─彼女の…望み…。
それが何かは右京が口にする事は無かった。
だが、クロノスは気付いていた。
彼女の願いはずっとひとつだった。
“愛する人と一緒にいたい…永遠に…。”
クロノスが右京からアロンの杖を受け取ると、彼は静かに止まったその空間から出ていった。
残されたクロノスは杖を握り締め、初めて自分の命を人の為に使った。
イザベラは部屋の真ん中にあるあの箱に寄り添う。
『…ロバート…ずっと一緒よ…』
そして、一瞬クロノスに微笑むと、まるで霧のように消えた。
それが彼女が見せた最期のマジックだった─。