とある堕天使のモノガタリⅤ
~TRINITAS~
思わず涙ぐんで言葉に詰まる忍の耳に右京の優しく低い声が響く。
「会いたいんだ…俺達の子供に。出産が大変な事だっていうのは判ってる。だけど…産んで欲しい。」
「いいの?…私、産んでも…」
「当たり前だろ!?今更何言ってんだよ!臨月のクセに!」
呆れた様に右京は笑うと、突然「ああああっ!」と叫び出した。
「今すぐ忍を抱き締めたい!俺、早退するわ!」
「はぁ!?ちょっ…右京!?」
既に切れた電話を唖然と見詰めていると、いつの間にか到着していたバスから「乗らないんですか?」と少し苛立ったようなアナウンスが聞こえた。
「あ…乗ります!」
慌てて乗り込み、優先席に腰を下ろす。
そして忍は家に着くまでずっと「本当に右京が早退をして来るんじゃないか」と心配で落ち着かなかった。