とある堕天使のモノガタリⅤ ~TRINITAS~




右京は今までこんなに自分が不甲斐ないと思った事はなかった。



これまで色々な出来事に遭遇してきたが、それなりにそつなくこなしてきたつもりだ。



だが今、妻である忍が陣痛に苦しむ姿を前にして、してやれる事が何もないのだ。



それは右京だけでなく、父である京助も例外ではない。



「ほら、突っ立ってないで荷物持って!右京!忍をちゃんと支えてなさいよ!」



二人は母、静に叱咤され、ただ「はい!」と従うだけだ。



この時ばかりは素直に「母さんすげぇ…」と感心する。



そんな右京の傍らで、またもや忍が呻き声をあげた。



右京の腕は忍が思いっきり掴んでいるせいで鬱血気味だ。



「だっ…大丈夫か?」



「…っに言ってんのよ…大丈夫なわけないでしょ!?」



別人じゃないかと思える程豹変した忍に、思わず怯む。




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