とある堕天使のモノガタリⅤ ~TRINITAS~



行きつけのバーに入って彼の姿を探す。



カウンターでグラスを傾ける田所を見付け、駆け寄ろうとして足を止めた。



彼の隣に褐色の肌をしたロングヘアの女性が見えたからだ。



…自分と待ち合わせているのに、他の女と楽しそうに飲んでいるなんて…!



そのまま帰ろうかとも思ったが、自分にはそれが腹を立てる理由にならない。



恋人同士ではないのだから…。



しのぶは平静を装い、「お待たせ」と彼の隣に座った。



「遅かったな…しのぶ。」



彼は二人の時、彼女を下の名前で呼ぶ。



そして、まるで本当の恋人の様に振る舞うのだ。



…馬鹿馬鹿しい…。



そう思いながらも嫌な気はしなかった。



「私にも一杯奢って貰えるのかしら?」



田所は「もちろん」と微笑んでしのぶにマティーニを頼んだ。



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