とある堕天使のモノガタリⅤ ~TRINITAS~




帰国してからほぼ毎朝師範と稽古をつける。



鈍っていた身体も師範の動きにやっと着いていけるまでになった。



とは言っても相変わらず彼は強く、70過ぎとは思えない動きだった。



右京より遥かに小さいクセに一撃喰らっただけで息が止まる程の衝撃である。



木刀のぶつかり合う音が冷えきった道内に響き渡り、二人の吐いた白い息だけが異様に目立つ。



ギリギリと押される刀は一瞬でも気を抜けば弾かれそうだ。



「のぉ、右京…」



間近でギラついた師範の目がフッと細められる。



「ひとつ賭けをせぬか?」



「賭け…?」



「ワシが買ったら孫の名前を“京五郎”に─」



「却下っ!」



渾身の力で師範の太刀を薙ぎ払うと、すかさず回し蹴りを繰り出す。



彼は難なくそれをかわしてため息を着いた。



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