とある堕天使のモノガタリⅤ
~TRINITAS~
気が付けば彼の隣に居た褐色の肌をした女性は居なかった。
「…彼女は?」
「彼女?…誰の事?」
「あなたの隣にさっきまで居た女の子よ。」
「はぁ?…俺は一人だったよ。」
惚けているのか、首を傾げると「それより…」と田所はしのぶの耳元に顔を近付けた。
「二人の時は名前で呼べって言ったろ?」
「…そうだったわね…田所誠さん?」
しのぶはマティーニを受け取るとそう言って彼に微笑んだ。
それから他愛ない話をしていたのだが、どうも様子がおかしい。
「…もしかして酔ってる?」
「全然。…あぁ酔ってるとしたら、君のせいかもしれない。」
思わず二杯目のマティーニを吹き溢しそうになる。
普段の彼からはあり得ないクサイ台詞にしのぶは眉を寄せた。