とある堕天使のモノガタリⅤ ~TRINITAS~



昼間になり陽射しはあっても道場内は悴むほど寒かった。



忍が買い物の間暇を持て余した右京は、ケイを寝かせたクーファンを道内の隅にそっと置いた。



トコトコと後ろを着いてきたルークはケイの足元に飛び乗ると、四肢を畳んで欠伸をひとつ溢す。



湯タンポ代わりに丁度いい。



冷たい床に正座をして精神統一を始めた右京をルークは黙って見つめていた。



ゆっくりと息を吐きながら傍らに置いた木刀を手に取り、剣術の形を確認していく。



辺りに聴こえるのは風を斬る音だけだった。



暫くすると「右京様…」と控え目な声がしたが、あえて返事はしなかった。



潤はそれを気にせず彼に話し掛ける。



「出過ぎた事かとも思いますが…よろしいので?」



「…なにが?」



「ケイ様ですよ。道場などに連れて来て…」



「はぁ?大丈夫だろ…別にケイに稽古の相手をさせてるわけじゃないし。」



潤は「当たり前です」と右京を半眼で睨むとため息をついた。


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