とある堕天使のモノガタリⅤ
~TRINITAS~
右京はそれが忍のものであると悟るとクスッと笑う。
…愛する夫の顔が見たくて走って来るとは…
「…ったく可愛い奴め!」
キューー…ッ!と板の間を滑りながら入口に姿を現した忍は、ゼエゼエと肩で息をして道内に視線を走らせる。
そしてクーファンが隅にある事を確認すると、物凄い形相で右京を睨んだ。
「…ぁ…あれっ?…」
何故睨まれているかは解らないが、彼女が憤怒しているのは確かだ。
右京はずんずんと近付いて来る忍に一歩退いた。
「…右京…」
「えっ…な、なに!?…何で怒ってんの!?」
「何で…ですって…?」
悪寒がしたのは空気の冷たさだけではないだろう。
ゴクリと喉を鳴らし、更にもう一歩退く。
「…私はねぇ…ケイをみててって言ったのよ…?」
間合いを縮めて来る忍に右京は両手を上げて早くも降参状態である。