とある堕天使のモノガタリⅤ ~TRINITAS~




久々に訪れた真っ白な神殿は異様な程静かだった。



長い廊下を歩く足音だけが木霊する。




『お久しぶりです…ガブリエル様。』




ハニエルが謁見の間に現れると、ガブリエルは読んでいた書物から顔を上げた。



『待っていましたよ、ハニエル。急に呼び出してごめんなさいね。』



膝を着いて頭を垂れる彼にガブリエルはそう言って微笑んだ。



彼女は傍に居た従者にお茶を持って来るよう言い付けると、ハニエルに椅子に座るよう促した。



彼は一礼をして静かに椅子を引いた。



『その後どうですか?』



『それが、上は何も言って来ないのです。それが不自然な気がして、正直なところ逆に不安です。』



『そうですね…』



ガブリエルはお茶を持って来た従者に下がるよう命じてからハニエルを真っ直ぐ見据えた。



『実はわたくし、妙な噂を耳にしましたの。』



『噂…ですか?』



ええ…と答えてカップを手に取り口元へと運ぶ一連の動作は相変わらずと言っていいほど優雅だった。




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