とある堕天使のモノガタリⅤ
~TRINITAS~
「あれ…誰も居ない…」
ベビーカーではケイが暴れ出し、一点を見つめてそれに向かってしきりに手を伸ばしていた。
不思議に思い視線の先を追う。
「ああ…なんだ、ルークかぁ~」
塀の上に居たルークは忍に不機嫌そうな目をして睨む。
─黙ッテ出掛ケルナ。
「ただのお散歩よ。一時間くらいで戻るから家で待ってたら?」
すれ違った人が忍を不審そうに見ている。
彼女が独り言を言っていると思ったのだろう。
忍は小さく咳払いをすると、ルークを無視して歩き出した。
「あら、可愛い赤ちゃん!お散歩かしら。」
公園の前で知らない老婦人がケイを覗き込む。
「ええ、今日は暖かいのでお散歩に丁度いいです。」
「そうよね~昨日は寒かったもの。うちの孫もね~…─」
話し出した老婦人は止まらない。
「─これがうちの孫でもうすぐ3人目が産まれるのよ~。ああ、でもそっちは次男の子でね~…─」
わざわざバッグから写真を取り出すので仕方なく忍はそれを手に取った。